第3回・90分・精神看護学各論
安全を守る
〜「治療」と「自由」、永遠のジレンマと向き合う 〜
講師:古賀 慎一(精神科看護師)
2026年7月31日(金)/ 佐賀市医師会立看護専門学校 2年生
第109回 看護師国家試験 より(改題)
精神保健福祉法に定める身体拘束を行う際の
条件として正しいのはどれか。
- 1看護師の判断で開始できる
- 2精神保健指定医が必要と認めた場合に行う
- 3家族の同意があれば実施できる
- 41日以上は継続しなければならない
🤔
答えは…
この90分の 最後 で明らかになります 🌱
⚖️ 今日の本質的な問い
精神看護の根本的なジレンマ
🔒 安全
患者・看護師・他患者を守る
→ 制限が必要なことも
🕊️ 自由
患者の人権・自己決定
→ 制限は最小限であるべき
この2つは、しばしば対立する。看護師は両方の番人。
SECTION 1 ・ 12分
リスクマネジメント
の枠組み
— 「事故が起きる前」に動く視点 —
🛡️ 「安全」って誰の安全?
守るべきは「3層」
👩⚕️
看護師の安全
暴力・感染・心の傷から守る
💡 「看護師の安全」が大事って、習いました?
💚 Trauma-Informed Care
「トラウマインフォームドケア(TIC)」
患者の 「困った行動」 を、
「過去のトラウマへの反応」 として理解しケアする視点。
- 🔄 「どうしてこの行動を?」→「何があったの?」へ視点転換
- 🚫 行動制限が、新たなトラウマを生まないよう配慮
- 🌱 安心・信頼・選択肢・協働・エンパワメントが原則
👥
PAIR WORK・2人で
「困った患者」が
本当に困っているのは誰?
📝 個人で30秒:あなたが患者だったら、入院中に「これは怖い・嫌だ」と感じる場面は何?1つ思い浮かべる
🗣 ペアで2分:隣の人と共有。お互いの「怖い場面」を聴く
💡 気づき:看護師が日常的にしていることが、患者にはトラウマになることがある。
⏱ 合計2分30秒
SECTION 2 ・ 18分
自殺予防戦略
— 「死にたい」と言われた時、あなたができること —
📊 知っておきたい数字
日本の自殺者のうち、精神疾患を持つ人の割合
約90%
精神看護師は、自殺予防の最前線にいる。
🤯 だからこそ、「どう対応するか」を体系的に学ぶ必要がある。
🌐 WHO推奨の自殺予防モデル
3段階の予防戦略
- 🌱 一次予防(プリベンション):自殺リスクを下げる環境づくり
例:精神疾患の早期発見・治療、社会的孤立の解消
- ⚠️ 二次予防(インターベンション):自殺の危機にある人への介入
例:リスク評価、TALK技法、安全計画
- 💔 三次予防(ポストベンション):自殺後の遺族・関係者ケア
例:サバイバー支援、職員へのデブリーフィング
💬 TALK の原則
「死にたい」と言われた時、どう関わる?
- Tell|正直に伝える:「あなたが心配だ」
- Ask|はっきり聞く:「死にたいと思っていますか?」
- Listen|ただ聴く:判断・否定しない
- Keep safe|安全を保つ:1人にしない・チームで動く
⚠️ 「死にたい」と聞くと、かえって自殺リスクが上がるはウソ。
聞かないことの方が危険。
👨👩👧👦
GROUP WORK・4人で
「死にたい」と言われた時、
あなたなら何と返す?
📋 場面:夜勤中、Cさん(45歳・うつ病)から突然「もう死にたい」と打ち明けられた。
📝 個人で1分:あなたなら最初の一言、何を言う?
🗣 4人グループで4分:各自の「最初の一言」を共有 → グループで「ベストな対応」を1つ選ぶ
💡 TALKの原則を使ってOK。
⏱ 合計5分
SECTION 3 ・ 15分
暴力への対応
— 患者を守り、自分も守る —
🔄 暴力のエスカレーション
暴力は「突然」起きない
① 不安・苛立ち(早めの声かけが効く)
↓
② 言語的興奮(声を荒げる、要求が増える)
↓
③ 身体的興奮(物を投げる、威嚇行為)
↓
④ 暴力行為
💡 ①〜②で適切に対応できれば、③④は防げる!
🛠 暴力リスク評価&対応
覚える2つの英語ツール
📊 HCR-20
暴力リスクを20項目で評価
- H:歴史的因子(過去)
- C:臨床的因子(現在)
- R:リスク管理(将来)
🤝 CVPPP
包括的暴力防止プログラム
- 予防 → 介入 → 振り返り
- 身体技法・言語的鎮静
- 日本の精神科で標準化
SECTION 4 ・ 15分
行動制限
— 隔離・身体拘束 — 法律と倫理 —
⚖️ 身体拘束 ・ 国試頻出
身体拘束ができるのは「3要件」を満たす時だけ
- ① 切迫性:本人または他者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
- ② 非代替性:身体拘束以外に代替する介護方法がない
- ③ 一時性:拘束は一時的なものに限定される
🔑 さらに:精神保健指定医の判断が必要(精神保健福祉法)
👁️ 観察項目
拘束中、看護師がチェックすべきこと
- 🩺 身体合併症の予防:肺塞栓・褥瘡・関節拘縮・誤嚥
- 👁️ 頻回な観察:少なくとも30分ごと(施設による)
- 📝 診療録への記載:時間・理由・観察内容
- 💧 水分・食事・排泄のケア
- 💬 声かけ:威圧的にならない、説明を続ける
⚠️ 深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)は身体拘束の死亡原因No.1。下肢を観察!
SECTION 5 ・ 8分
スタッフの安全
— 「あなた」も大切な存在です —
💚 スタッフ支援
つらい場面の後、ひとりで抱え込まない
グループディブリーフィング:暴力・自殺などの危機事態の後、関わったスタッフ同士で振り返る集まり
- 👥 関わった人全員で「事実 → 感情 → 学び」の順に共有
- 💔 「自分のせいだ」と1人で背負わない
- 🌱 組織全体での学習&改善
SECTION 6 ・ 7分
振り返り
— ジレンマと向き合った90分 —
📝 今日のキーワード5つ
これだけ覚えて帰ってください
💬
GROUP WORK・4人で
「安全を守る」とは、
誰のため?何のため?
📝 個人で1分:「安全」と「自由」、看護師として最終的に大切にしたい価値観は?
🗣 4人グループで4分:順番に共有。理由まで話す。
💡 答えは一つじゃない。悩み続けることが大事。
⏱ 合計5分
第109回 看護師国家試験 より(改題)
精神保健福祉法に定める身体拘束を行う際の
条件として正しいのはどれか。
- 1看護師の判断で開始できる
- 2精神保健指定医が必要と認めた場合に行う ✨
- 3家族の同意があれば実施できる
- 41日以上は継続しなければならない
正解:2
💡 解説
身体拘束の判断は「指定医」のみ
- ❌ 1番:看護師の判断 ← 違う、医師の指示が必要
- ✅ 2番:精神保健指定医 ← これが法律の規定
- ❌ 3番:家族の同意 ← 違う、医療判断が優先
- ❌ 4番:1日以上継続 ← 違う、一時性の原則
🔑 「精神保健指定医」は5年以上の臨床経験等の要件を満たす医師。強制入院や行動制限を判断できる。
自殺リスクの対応問題
自殺念慮を訴える患者への
看護師の対応で適切なのはどれか。
- 1「死にたい」とはっきり聞かないようにする
- 2「死んでも大丈夫よ」と励まして気を紛らわせる
- 3「死にたいと思っていますか」と直接尋ねる
- 4家族にだけ伝え、医師には知らせない
正解は…
- 1聞かない ← 違う、聞かない方が危険
- 2励ます・気を紛らわす ← 違う、否定せず受け止める
- 3「死にたいと思っていますか」と直接尋ねる ✨ TALKのA
- 4医師に知らせない ← 違う、必ずチームで対応
TALK技法の「A」(Ask)を覚えていれば即答!
📅 次回予告
第4回(8/7)
「身体をケアする Part 1」
テーマがガラッと変わります。「精神」の患者さんの「身体」へ。
- 🩺 精神疾患患者の身体的特性
- 🦷 日常生活ケア(口腔・清潔・栄養・排泄)
- 🛏️ 褥瘡予防、転倒予防
- 👀 「訴えられない患者」のアセスメント術
お疲れさまでした 🌱
「安全」と「自由」のジレンマに正解はありません。
でも「悩み続ける看護師」こそ、患者さんを真に守れる存在です。
次回 8/7 また会いましょう。