回復を支援する

〜「治す」から「支える」へ、世界が変わった瞬間〜
講師:古賀 慎一(精神科看護師)
2026年7月17日(金)/ 佐賀市医師会立看護専門学校 2年生
🍀 第1回
🎯 いきなり、国試問題!

第111回 看護師国家試験 より(改題)

精神疾患患者に対する リカバリー(recovery) の概念で
正しいのはどれか。

  • 1症状が完全に消失した状態のこと
  • 2服薬を中止できる状態のこと
  • 3自分の人生を主体的に生きること
  • 4社会的役割を完全に取り戻すこと
🤔

答えは…

この90分の 最後 で明らかになります 🌱

それまでに、自分なりの答えを温めておいてください。

🍀 第1回

今日の90分、3つのお願い

1

すぐ答えを見ない、まず自分で考える

「自分はどう思う?」と問いかけるクセが、看護のすべての出発点です

2

隣の人と話す時間を、ちゃんと使う

誰かに話すと、自分の考えがクリアになります(ペアワーク・グループワークあり)

3

「答え」より「考え方」を持ち帰る

国試対策は当然サポート。でも、本物の学びは「考える型」です

SECTION 1 ・ 10分

なぜ今、
「リカバリー」なのか?

— 1人の患者さんの言葉から、すべてが始まる —

🍀 第1回
Aさん(32歳・男性)/ 22歳で統合失調症と診断
幻聴は、まだ週に1回くらいあります。
でも僕、今、
"生きてる"って感じがするんです。
💭 あなたへの問い:これを「回復している」と言えるでしょうか?
🙋

あなたなら、
これを「回復」と判定する?

手を挙げて教えてください

YES
NO
わからない
🍀 第1回

世界が共有する「リカバリー」とは

DEFINITION
リカバリーとは、人としての態度・価値観・感情・目標・技能・役割を変化させる、深く個人的でユニークなプロセスである。
それは、病気がもたらした制限を抱えながらも、満足のいく希望に満ちた人生を生きる方法である。
— William Anthony, 1993

👆 ここに「症状が消える」とは、一言も書かれていない。

🍀 第1回

統合失調症と診断された人のうち

26%

が、25年以上の追跡研究で
「完全寛解+社会的自立」に到達した。

Harding et al., バーモント長期追跡研究(1987)

🤯 「精神疾患は治らない」というイメージは、本当だろうか?
🍀 第1回

20世紀後半、世界の精神医療が大きく変わった

❌ 旧モデル:「治す」cure

  • 症状の除去がゴール
  • 専門家が中心
  • 患者は受け身
  • 「治る or 治らない」の二択
  • 入院が標準

✅ 新モデル:「支える」recovery

  • その人の人生の構築
  • 本人が中心
  • 患者は主体
  • 症状があっても回復はある
  • 地域生活が標準
SECTION 2 ・ 15分

リカバリーって
具体的に何?

— 4つの要素と「2つのリカバリー」 —

🍀 第1回

これが揃うと、人は前に進める

🌅

Hope(希望)

未来は変えられる、と信じられること

💪

Empowerment(力)

自分で決めて、自分で動く力

🤝

Connection(つながり)

一人じゃない、誰かと繋がっている

🪞

Identity(自分らしさ)

「病気の人」ではなく「私」として

👥
PAIR WORK・2人で

あなたの「小さな回復」を
思い出してみよう

📝 個人で30秒:最近、自分が「立ち直ったな」「前より少し元気になったな」と感じた経験を、1つ思い出してください。

🗣 ペアで2分:隣の人と1分ずつ、その経験を話してください。

💡 気づきのポイント:あなたの「回復」は、症状が消えたから?それとも、何か別のものでしたか?

⏱ 合計2分30秒
🍀 第1回

「2種類のリカバリー」を区別しよう

🩺 臨床的リカバリー

  • 症状の改善
  • 服薬遵守
  • 再入院なし

判定するのは:医療者

🌱 個人的リカバリー

  • 自分らしく生きる
  • 希望を持つ
  • 役割がある

判定するのは:本人

どっちも大事。でも、従来は「臨床的」だけが見られていた。

🍀 第1回
Aさん(32歳・男性)/ 統合失調症
  • 💊 薬は飲み続けている
  • 🎧 幻聴は週1回ある
  • ☕ 週3日、カフェでバイト
  • 🎮 友達と趣味の話をする時間が一番幸せ

🩺 臨床的には?

まだ症状あり
→ 「未回復」

🌱 個人的には?

自分らしく生きてる
→ 「回復している

👨‍👩‍👧‍👦
GROUP WORK・4人で

Aさんの「強み」を、
5つ挙げてみよう

📋 場面:あなたたち看護学生は、Aさん(32歳・統合失調症)を受け持つことになりました。今ある情報は…

薬を飲み続けている/幻聴は週1回/週3日カフェでバイト/友達と趣味の話が一番幸せ

🎯 4人グループで5分:Aさんの「強み(ストレングス)」を、5つ絞り出してみてください。

💡 ヒント:「できないこと」ではなく、「できていること」「持っているもの」「気持ち」「環境」「人とのつながり」を探してみよう。

⏱ 5分
🍀 第1回

Strengths Model(ストレングスモデル)

弱み(欠落)を探すのではなく、
強み(資源)を活かす
看護のアプローチ。

5つのストレングス

個人の特性

性格・人柄

才能・技能

できること

関心・抱負

やりたい
こと

環境

地域・
サービス

つながり

家族・友人
支援者

🍀 第1回

あなたなら、どっちから関係を始めたい?

👁️ 弱みアセスメント

  • 服薬中断歴あり
  • 社会的孤立
  • 対人関係不良
  • 金銭管理困難
  • 陰性症状残存

✨ 強みアセスメント

  • コーヒーが大好き
  • 絵が描ける
  • 祖母と毎週通話する
  • 夢はカフェ開業
  • 正直で誠実な性格

🤔 同じ人を見ているのに、関係性が全然違ってきますよね。

SECTION 3 ・ 15分

エンパワメント

— 看護師の言葉一つで、患者の力は戻る or 奪われる —

🍀 第1回

エンパワメントとは

個人が、自らの人生に対する 力(power)を取り戻す プロセス。

⚠️ 反対語:パワーレスネス(powerlessness)

🤔 問い:精神疾患の患者さんは、なぜ「力を奪われやすい」のでしょうか?
🍀 第1回

こうやって、力は奪われていく

病気になる
入院・スティグマ・偏見
経済的困窮・関係喪失
「自分は無力だ」 → 自己否定
💡 そして、医療者の善意も、時にこの悪循環を強化してしまう。
🍀 第1回

言葉ひとつで、力は戻る

×「服薬してくださいね」
「服薬で、気になることありますか?」
×「散歩しましょう」
「散歩と読書、どっちがいい気分ですか?」
×「ご家族と相談しますね」
「ご家族に何を、どう伝えたいですか?」

👆 主語を、患者さんに戻す。これだけで関係が変わる。

🎬

ミニワーク:
あなたなら、何と声をかけますか?

📋 場面:
あなたが受け持つBさん(45歳・うつ病)は、入院してから
毎日同じ服を着ています。今日も同じ服です。

まず 個人で30秒 考える → そのあと ペアで1分 共有

⏱ 合計1分30秒

🍀 第1回

同じ場面、3つの声かけ

×「お風呂入って、着替えましょうね」

→ 看護師の都合・指示モード。Bさんの理由は無視。

「おしゃれしませんか?」

→ 看護師の価値観の押しつけ。「おしゃれ=良いこと」とは限らない。

「Bさん、その服、お似合いですね。何か思い出のある服ですか?」

→ 相手の「ものさし」に近づく。会話が始まる。

🌱 原則:まず、その人の世界に「お邪魔します」する。
🍀 第1回

自己決定の尊重 — 看護師の立ち位置

🎯

代わりに決める人

「これがあなたのため」

🤝

決めるお手伝いをする人

「あなたはどうしたい?」

⚠️ 自傷他害のリスクがある場合は別。基本姿勢としてのお話。
SECTION 4 ・ 10分

今日の振り返りと
国試問題の答え合わせ

— 冒頭で出した問題、覚えていますか? —

🍀 第1回

これだけ覚えて帰ってください

01
リカバリー
02
パラダイム
シフト
03
個人的
リカバリー
04
ストレングス
モデル
05
エンパワ
メント

🌱 この5つで、精神看護のすべてが繋がります。

💬
GROUP WORK・4人で

今日、あなたの中で
「変わったこと」は?

📝 個人で1分:5つのキーワードのうち、「今日の自分にとって一番心に残った言葉」を1つ選んでください。なぜそれを選んだか、理由を書く(1〜2文でOK)

🗣 4人グループで5分:順番に発表してください。「私が選んだ言葉は◯◯です。理由は…」

💡 聞き手のルール:否定しない・評価しない・「いいね、わかる!」と相づちを打つだけでOK。

📌 これは「ピアサポート」の擬似体験。次回学びますが、人は「自分の言葉が誰かに受け止められる」だけで、力を取り戻せます。

⏱ 合計6分
🍀 第1回
🎯 さて、冒頭の国試問題

第111回 看護師国家試験 より(改題)

精神疾患患者に対する リカバリー(recovery) の概念で
正しいのはどれか。

  • 1症状が完全に消失した状態のこと
  • 2服薬を中止できる状態のこと
  • 3自分の人生を主体的に生きること ✨
  • 4社会的役割を完全に取り戻すこと

正解は… 3

🍀 第1回

なぜ「3」が正解なのか

  • 1番「症状が完全に消失」← これは 臨床的リカバリー。古いモデル。
  • 2番「服薬中止」← 服薬は本人の選択。回復の定義ではない。
  • 3番「自分の人生を主体的に生きる」← 個人的リカバリーそのもの!
  • 4番「社会的役割を完全に取り戻す」← 完全である必要はない。
🌟 ポイント:「症状」「完全」「正常」というキーワードが入っている選択肢は、リカバリー概念とは違うと疑え!
🍀 第1回
🎯 もう1問!応用編

これも国試で頻出

ストレングスモデルに基づく看護介入で
適切なのはどれか。

  • 1患者の問題点を漏れなくリストアップする
  • 2患者と相談して目標を立てる
  • 3看護師が回復のロードマップを示す
  • 4服薬指導を最優先で行う

⏱ 20秒、考えてみてください

🍀 第1回
💡 解答

正解は…

ストレングスモデルに基づく看護介入で
適切なのはどれか。

  • 1患者の問題点を漏れなくリストアップ ← 弱みばかり見る、×
  • 2患者と相談して目標を立てる ✨ ← 協働がストレングスの核!
  • 3看護師が回復のロードマップを示す ← 看護師主導、×
  • 4服薬指導を最優先で行う ← 医療モデル、×
🍀 第1回

第2回(7/24)
「回復を支援する Part 2」

今日は概念を学びました。次回は 実践プログラム編 です。

  • 🏠 浦河べてるの家 — 「弱さの情報公開」革命
  • 🛠 IMR・SST・CBT・MBCT — エビデンスのある実践
  • 📋 WRAP(自分でつくる元気回復プラン)
  • 🤝 ピアサポート・自助グループ

🌱 「概念」が「方法」に変わる90分です。

お疲れさまでした 🌱

あなたが今日学んだ「個人的リカバリー」「ストレングス」「エンパワメント」の視点は、いつか必ず、誰かの『回復の旅』を支える力になります。

次回 7/24 また会いましょう。